耳について


耳の構造ときこえのしくみ
 外耳(耳介や外耳道)は空気の振動として伝わってくる音を集めます。この振動は鼓膜と中耳にある三つの骨(耳小骨:ッチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)によって、大きな振動へと増幅されます。この振動が次に内耳(蝸牛)に伝わり電気信号に変えられます。この信号が聴神経(蝸牛神経)を通って脳へ伝えられて、音や言葉として理解されるのです。

難聴の種類
 外耳・中耳に原因がある伝音難聴と、内耳から脳までの間に原因がある感音難聴の2種類があります。前者は耳垢が栓のようにたまった耳垢栓塞〈じこうせんそく〉、中耳に液体がたまる滲出性中耳炎〈しんしゅつせいちゅうじえん〉、急性中耳炎などの場合に多く見られます。後者は年齢とともにきこえが不自由になる老人性難聴や急性音響性難聴などでみられます。伝音難聴の場合、多くは治療によってきこえを回復させることができますが、感音難聴の場合、急にきこえが悪くなったもの以外は、残念ですが治療でよくすることは難しいのが現状です。

耳垢(耳あか)で注意すること
 耳垢がたまり外耳道を栓のようにふさいだ状態を耳垢栓塞(じこうせんそく)と言います。このようになると難聴を起こします。また、プールなどで耳垢が水でふやけて膨張し、耳の穴をふさいで難聴を起こしたり、外耳炎の原因になったりします。
 耳垢は外耳道の入り口付近にたまりますので、綿棒などを使って見える範囲のものを無理せずに取るようにしてください。耳の中をあまりいじると、耳垢を奥に押し込んだり、外耳道を傷つけたりします。
 耳掃除をしているところに他人がぶつかったり、歩きながら掃除している時にひじが壁などに当たって、鼓膜を破ったりする事故が多いので、注意してください。

外耳炎とは
 外耳道炎ともいわれるもので、耳の穴のおできのことです。不潔な耳かき、マッチの棒、指のつめなどで耳の中をかいて傷を作った場合に感染を起こして発病します。耳垢栓塞のある人がプールなどで泳いだ時に、きたない水が入ると、耳垢がしめって膨張し、それに細菌が混入して毛穴を中心に炎症がはじまることも多いです。
 症状は、はじめは軽い痛みですが、後にははげしい痛みになって、夜眠れない程になることもあります。耳をひっぱったり、入り口を押したりした時や、物をかむときに痛みが起こるか強くなります。
 治療は、耳鼻咽喉科での局所の処置、抗生物質、鎮痛剤などを服用します。

急性中耳炎とは
 中耳に細菌やウイルスが入り、急性の炎症が起きて膿がたまる病気です。中耳には鼻の奥に通じている耳管〈じかん〉が開いています。細菌やウイルスが耳管を通って中耳に入ると、中耳の粘膜に急激に炎症を引き起こします。このように、中耳炎はかぜを引いたときなどに鼻やのどの炎症に引き続いて起こることが多いのです。
 症状は、ずきずきする激しい痛み、発熱、耳漏(耳だれ)、耳がつまった感じなどが起こります。乳児などでは痛みを訴えられないために、機嫌悪くぐずったり、しきりに耳に手をやったりします。
 治療は、軽症の場合は抗生物質や消炎剤などを服用したり、耳に炎症をやわらげる薬液をたらすなどの治療をします。耳だれがある場合には清拭〈せいしき〉、吸引、洗浄などを行います。鼓膜の腫(は)れがひどく痛みが強い時や、熱が高い時は鼓膜を切開して、たまっている膿を出します。また、かぜの症状や、鼻づまり、鼻水が多いときはのどと鼻の治療も行います。
 きちんと治療をすれば、ほとんどの場合は完全に治ります。途中で治療をやめてしまうと、滲出性中耳炎などに移行してしまうことがあります。耳鼻咽喉科で完全に治ったといわれるまで、きちんと治療を受けることが大切です。
 中耳炎にならないように気をつけることとして、鼻やのどに炎症がおきて、鼻水や疲・咳が長く続くときは、耳鼻咽喉科で治療を受けるようにしてください。鼻のかみ方が悪いと細菌を耳の中に押し込んで中耳炎を起こすことがありますので、鼻は片方ずつゆっくりとかみましょう。
 スイミングは、中耳炎が完全に治って医師の許可があるまでは泳ぐのはやめましょう。ふだんでも、鼻水が出ている時や、かぜ気味の時にプールに入ると、急性中耳炎を起こしやすいので注意してください。

滲出性中耳炎とは
 鼓膜の奥の中耳腔という部屋に滲出液という液体がたまる病気です。中耳の粘膜の炎症と耳管の働きが低下すると、粘膜からしみ出た滲出液が中耳腔にたまるようになると考えられています。中耳腔の圧は外界の圧に比べて低くなり(陰圧)、鼓膜は中耳腔側に引き込まれます。中耳腔の滲出液と陰圧により鼓膜の振動が制限され難聴となります。 耳管は中耳腔の内圧を調整したり、貯留液を鼻の奥に排出する大切な役を担っている器官です。
 子どもでは3歳ごろから10歳ごろまでに多く見られます。子どもの難聴の原因では一番多いものです。
 原因は、急性中耳炎が十分に治りきらずに鼓膜の内側の中耳腔に膿〈うみ〉が滲出液となって残ってしまう場合です。普通、中耳炎の膿は中耳腔の粘膜から吸収されるか、中耳腔と鼻の奥をつないでいる耳管(じかん)という管を通ってのどのほうに排出されます。副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎などの鼻の病気やのどに慢性の炎症がある場合、アデノイドが大きい場合などは耳管から滲出液を排出するはたらきが悪くなり、滲出性中耳炎になりやすくなります。
 滲出性中耳炎で中耳腔にたまっている液体は中耳の粘膜からしみでたものです。鼓膜に穴があいていないかぎり、水泳や洗髪で耳(外耳道)に入った水が中耳腔まで入るこ とはありません。
 症状は、急性中耳炎と違って強い痛みや発熱をともなわないのが特徴です。難聴が唯一の症状であることも多く、その程度も軽い場合が多く気づくのが遅てしまうことも よくあります。難聴は、日常生活ではテレビのボリュームを上げる、呼んでも返事をしないことなどで気づかれます。本人も家族も難聴に気づかず、学校健診などでの聴力検査ではじめてみつかることもよくあります。
 診断は、鼓膜の状態を顕微鏡や内視鏡で拡大して観察し、レントゲンやきこえの専門的な検査の結果によって診断します。鼓膜をとおして中耳腔にたまっている滲出液を確認できることもあります。聴力検査や鼓膜の動きを見る検査によって病気の程度もわかります。
 治療は、中耳腔にたまっている滲出液をなくしてきこえを良くするための治療と、耳に悪い影響を与えている鼻やのどの病気に対する治療とを並行して行うことが大切です。
 耳に対する治療は、きこえの状態がかなり悪い場合は鼓膜を少し切って中耳腔にたまっている滲出液を吸い出す鼓膜切開術を行い、きこえの改善をはかります。病気の程度が軽い場合には薬による治療や、鼻から中耳に空気を送る耳管通気くじかんつうき〉という処置を行います。滲出性中耳炎を繰り返したり、重症の場合は鼓膜を切開しチューブを留置する手術を行います。
 適切な治療を受ければほとんどの場合は完全に治ります。ただし、治療には時間がかかる場合も多く、根気よく通院する必要があります。耳鼻咽喉科医の指示に従って治療を受けてください。不十分な治療などのために、あとで入院手術が必要になる癒着性中耳炎〈ゆちゃくせいちゅうじえん〉や真珠腫性中耳炎〈しんじゅしゅせいちゅうじえん〉になることもありますので放置することは避けてください。

 鼓膜切開術:滲出性中耳炎に対して行われる鼓膜切開術〈こまくせっかいじゅつ〉は鼓膜の内側の中耳腔にたまっている滲出液を吸い出すことで聞こえをよくするとともに、中耳の風通しを一時的によくして、中耳の粘膜の状態を改善する目的で行われる手 術です。
 鼓膜を麻酔してからメスで鼓膜の一部を切開しますから痛みはありません。鼓膜の穴は数日で自然に閉じます。

 鼓膜チューブ留置術:鼓膜切開術と同じ目的で鼓膜に小さいシリコンやテフロンのチューブを煙突のように立てて留置する手術です。チューブを留置することにより鼓膜の内側の中耳腔と鼓膜の外側の外気が数カ月から1年以上開いた状態で流通を維持できま す。
 多くの場合、チューブは自然に抜けますが、脱落しない場合は中耳炎の治り具合をみて適当な時期に抜きます。
 スイミングは、耳や鼻の病気に対してはあまりょくないことは確かです。以前はなんでも駄目ということが多かったのですが、最近はその子の状態によって滲出性中耳炎の治療中でもプールに入ることは可能といわれています。かかりつけの耳鼻咽喉科医とよく相談してください。

慢性中耳炎は
 慢性中耳炎には二つのタイプがあります。
 一つは慢性化膿性中耳炎〈まんせいかのうせいちゅうじえん〉と呼ばれるもので、急性中耳炎が治りきらず、鼓膜に穴があいたままとなり、耳漏(耳だれ)を繰り返すタイブです。
 もう一つは真珠腫性中耳炎〈しんじゅしゅせいちゅうじえん〉と呼ばれるもので、周囲の骨をこわして進行します。真珠腫は外耳道や鼓膜の表皮が中耳腔に侵入して形成された組織であって、腫瘍ではありません。
 中耳に形成された真珠腫により耳小骨(ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)がこわされて難聴を、時には三半規管を入れている骨がこわされてめまいを、顔面神経をおおってい る骨がこわされて顔面神経まひを、頭蓋底の骨がこわされて髄膜炎〈ずいまくえん〉をひき起こしたりします。
 両タイプとも、音を内耳に伝える大切な役割を担っている鼓膜、ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨がこわされますので難聴となります(伝音難聴)。
 慢性化膿性中耳炎の治療は基本的には急性中耳炎と同じです。薬を服用したり、耳の処置を受けることにより耳だれは止まります。しかし鼓膜に穴があいているため耳に水が入ったり、かぜ(感冒)をひいたりすると耳だれを繰り返します。再発を防ぐためには鼓膜にあいた穴をふさぐなどの手術が必要です(鼓膜形成術といいます)。
 真珠腫性中耳炎の治療は基本的には手術です。中耳から真珠腫を取り除き、こわされた「鼓膜→ツチ骨→キヌタ骨→アブミ骨」といった一連の音を伝える伝音経路を再建して聴力を取り戻す手術をします(鼓室形成術といいます)。

一側聾(高度難聴)とは
 一側聾(高度難聴)とは片方の耳だけが高度難聴である場合を言い、以前は1000人に1人位と比較的高い頻度で発見されていましたが、最近の調査では児童・生徒10、000人に4人程度と減少しています。学齢期まで気づかれずに、健診ではじめて見つかることが少なくないので、学校保健上問題となります。原因は先天性かおたふくかぜ、どちらかの可能性が高いのですが、実際にはどちらかわからないことが多いです。
 治療は残念ながら、現在のところ有効な治療法はありません。
 きこえない耳と同じように、反対の耳の聴力を失う可能性はほとんどありません。ただし、普通の耳と同じく、強い騒音や中耳炎などのために難聴になるおそれはあります。また、おたふくかぜにかかると、きこえの良い方の耳が高度難聴になる可能性もあります。一側聾が発見された時点で、まだおたふくかぜにかかっていない場合には、予防注射を受けておくことをおすすめします。かかったかどうか分からない場合には、小児科の先生に相談するとよいでしょう。
 正常の人のようにステレオで音をきくことはできませんが、一側の耳できくことに十分なれていますので、実生活で大きなハンディキャップとはなりません。飛行機のパイロットになれないなど、特別の職業を選択できない制約を受けますが、それはきわめて例外的な場合です。
 教室の座席は中央が最適ですが、中央以外の場合はきこえない側を壁側にします。その他には配慮は不要です。

心因性難聴とは
 耳には原因となる病気がなく、こころが原因で起こる難聴です。自覚症状がなく日常生活でも気づかれずに、定期健康診断時の聴力検査ではじめて疑われる場合と、「耳がきこえない」、「耳の中で音がする」などの訴えで耳鼻咽喉科を受診して診断される場合とがあります。この両方をあわせると、小中学生で1万人に5〜8人ぐらいいます。男子より女子に多く、年齢的には6〜12歳に多くみられます。
 心因性難聴の子どもの多くは日常生活に何の訴えもなく、親や周囲の人もきこえが悪いことには気づかず、ほとんどが学校健診時の聴力検査ではじめてわかるという特徴があります。そのうち7割近くは、背景に子どもをとりまく環境からくるストレス(外的因子)」と、子ども自身の性格(内的因子)との関係で難聴がおこると考えられます。大半の子どもが環境に適応できても、一部の子どもは適応に時間がかかったり、適応できにくいため症状がでるのではないかと考えられています。
 原因となるストレスとしては学校生活と家庭での問題に関することがほとんどです。学校生活に関することでは、学習、友人関係、転校やいじめなどさまざまです。具体的には「担任がかわった」、「クラス替えがあった」、「クラスの雰囲気になじめない」など比較的単純な原因から、「いじめ」など深刻な原因まであります。
 家庭での問題では、両親の離婚、親子関係、兄弟関係などいろいろです。単身赴任で父親が不在がち、進学問題で親と意見が合わない、手のかかる兄弟がいてかまってもらえない、逆に親のかまいすぎなどがしばしば誘因になっています。ほかには、自身の病気のこと、塾・けいこ事などが負担になっていることもあります。問題が複雑にからみあっている場合も多く、どうしても原因を把握できない場合も3割位あります。
 治療は診断がついたら、本人や家族に「難聴をおこす病気がないこと」、「普通に聞こえていること」を話し、自信をとりもどしてもらうことが必要です。また、聴力の異常は心理的葛藤の警告信号であり、発症の背景にこころの問題があることが多いことを保護者に十分説明し、理解してもらうことが肝要です。
 学校健診で発見されたが、難聴の自覚がないかあっても軽く、日常生活に支障がないもので、心因が明らかでないか、疑わしい程度の場合には、上に述べた説明と経過観察で改善するものが大部分です。心因が明らかな場合には、その内容に応じて、保護者(家族)や学校関係者の協力が必要となります。これらで改善がみられない場合は、カウンセリングなどの心理療法や精神療法を行うこともあります。
 心因性難聴はこころの葛藤や悩みを持った子どもたちの‘SOS’ととらえ、治療を円滑に進めるために教職員にも関心をもってもらいたいと思います。

最近、聴力が正常なのにrきこえない」と訴える生徒がいる、とききますが、くわしいことを教えて ください。
 たしかに、そのような中・高校生が増えているようです。学校の定期健康診断時にあわせて行う問診票による質問の中で「きこえが悪い」の項に○印をした生徒は、中学生で10%弱、高校生で約6%あり、高校生では過去5年間に1・6倍になったという最近の報告があります。それらの生徒の多くが小学生のころから「きこえが悪い」、と感じており、とくに友人との会話がききとりにくく、何度もききかえしをするために友人関係にトラブルを生じている、と訴える生徒が、とくに高校生に多くみられます。友人以外でも家族や教師の話がききにくく、日頃から不便で気になっており、ぜひ治したいと思っているものも多く、本人にとってはかなり深刻な問題のようです。原因は正確には不明ですが、きこえにくくなる時間帯が朝や夜ではなく日中に多く、しかも週初あるいは週末ではなく、週の半ば(火、水、木)に多いことは、学校生活と何らかの関わりがあることが推定されます。
 このように自分の聴力に不安を抱いている生徒に対して(「他人の話をききとる自信がない」と訴える中学生がいます)、くわしい聴力検査を行って、聴力が正常であることを十分に納得させることは非常に重要で、その上で学校医、教師、家族、友人が生徒本人の訴えを謙虚に聞いて理解するよう努めることが何より大切です。

耳鳴とは
 自分のまわりに明らかに音が出ていないのに、耳の中で音を感じる状態を言います(自覚的耳鳴といいます)。つまり耳の中で「キーン」、「ジー」、「ゴー」などといった音を感じます。普通は他の人にはきこえませんが、他人にもきこえる耳鳴も多くはありませんがあります(他覚的耳鳴といいます)。
 原因となる病気としては耳垢栓塞、外耳道異物、急性中耳炎、滲出性中耳炎などでも耳鳴を感じることがありますが、多くはもとの病気の治療や、病気が治ると消えてしまいます。
 ところが耳鳴の大部分は何らかの難聴にともなって発症します。しかし、どうして耳鳴が起こるのかは残念ながら未だわかっていません。
 なお、静かな部屋で「シーン」という音を感じたり、たまに急に「キーン」と鳴ってすぐに消えてしまう耳鳴はほとんどの人が経験するもので、特に心配はいりません。
 耳鳴だけの症状で重大な病気ということは、ほとんどの場合ありませんが、成人では脳腫瘍の一つである聴神経腫瘍がみつかることがあります。耳鳴が持続する時には、早めに耳鼻咽喉科を受診してください。

急性音響性難聴とは
 強大な音にさらされることによっておこる難聴で、内耳の障害によるものです。ロックコンサートやディスコなどで起こった場合にはロックコンサート難聴、あるいはディスコ難聴と呼ばれます。コンサートに行った直後から、耳のふさがった感じや、難聴、耳鳴がするといった症状が出ます。帰宅までに治ることもありますが、翌朝になっても消えないこともあります。通常、耳の痛みやめまいを伴うことはありません。
 難聴の程度が軽く、早く治療を開始した場合は治ることもあります。難聴や耳鳴を自覚した場合にはできるだけ早く耳鼻咽喉科を受診することが必要です。
 予防法はコンサートではスピーカーからできるだけ離れるようにするなど、強大な音にさらされないように注意することです。音に対する感受性は個人差が大きいので、同じように強大音にさらされても難聴になる人とならない人がいます。
 治療をしても難聴や耳鳴が残ってしまうことも少なくないので、耳がおかしいと感じたら、途中できくのを止めて会場を出る勇気も必要です。また、ヘッドホンステレオは、周囲に音もれがする程の音量できくのはやめましょう。若い時から耳を大切にするよう努めましょう。

補聴器・人工内耳について
 補聴器とは、耳に入る音を大きくして難聴の場合でもきき取りを良くするための器械です。最近では平成14年に学校に関する法律が改正されて、いままで聾学校(ろうがっこう〉や難聴学級に通っていたお友達でも、学校側の受け入れ体制が十分であれば、通常の学級に通うことができるようになり、通常学級にも補聴器をつけたお友達が増えてきています。
 補聴器をつけていても、聴力に問題のない(健聴)子と同じようにきこえるというわけではありません。朝礼や式典のスピーカの音はきき取れないと考えてよいと思います。このような時は、周囲のお友達が話の内容を教えるようにしてあげてください。また、補聴器はすべての音を大きくするので、ききたいことばが、雑音の中に埋まってしまったり、大きな音はわれてきこえたり、ことばがひずんで聞こえたりするので、それなりの気配りが必要になります。補聴器を使っているお友達と話すときには、
(1)なるべく静かなところで (2)1対1で (3)口元がよく見えるようにして (4)はっきり、少しゆっくりと、普通より少し大きめの声で (5)表情を豊かにして (6)簡潔に 話してあげるとききとりやすくなります。
 補聴器を使っている人は、補聴器から入ってくる音と、話している人の口元のかたちや、舌の動きや、くちびるの閉じかたなどを合わせて、ことばの内容を理解しているので、後ろ向きで話している人のことばはとてもききとりにくいことも理解してくださ い。また補聴器を使っている人は、周囲の大きい音が必要以上に大きくきこえてしまう傾向があるため、机やいすの移動の時のガタガタ音や、運動会のピストルの音には気をつけてあげましょう。また、机やいすを動かすときは脚にテニスボールをつけると静かになります。
 FM補聴器とは特殊な補聴器で、先生の声をマイクでひろって、それを電波で送って補聴器に入れるというものです。これを使うと先生がそばにいなくても先生の声をよくききとることができる場合があります。
 最近では人工内耳の手術をうける子どもも多くなってきました。
 人工内耳は、音を電気信号にかえ、この信号を内耳に入れた電極に伝えて、直接内耳の神経を刺激して音を感じさせようとするものです。難聴の程度が非常に重いと、補聴器を使っても音の判別ができないことがあります。生まれつきの重度の難聴の子どもでも、早期に人工内耳の手術をすると、ことばや聞き取りの発達などに大きな効果が期待できる場合があり、最近は小児の人工内耳装用者は次第に増えてきています。人工内耳のお友達にも、補聴器のお友達と同じような配慮をしてあげてください。

「めまい」とは
 めまいは実際にはからだが回転したり、ふらついたりしていないにもかかわらず、あたかも回転したり、ふらついているかのように感じてしまう現象です。心理的側面を持った感覚異常といえます。
 めまいはからだの平衡をとる仕組みが崩れたときに起こってきます。情報を集めて判断し、指令を出す平衡感覚の中枢器官(中央統括センター)は脳にあります。小脳と脳幹は大切な役割を果たしています。
 平衡感覚の情報を中枢の脳に送る末梢器官(地方出先機関)は目、耳、頚部(くび)や四肢(手足)の中にあります。目は光(周囲の映像)の情報を、耳は加速度(速度の変化)の情報を、頚部や四肢は深部の筋肉の収縮や皮膚の圧力の情報を脳に送ります。
 この末梢と中枢の情報交換の仕組みが崩れたときにめまいが起こってきます。
 耳はきこえの器官ですがめまいとも関係があります。
 耳は音をきくカタツムリの形をした蝸牛と、からだの平衡をとる耳石器〈じせきき〉と三つの半規管くはんきかん>で構成されています。耳石器(前庭器官とも言い、卵形嚢〈らんけいのう〉と球形轟〈きゅうけいのう〉からなる)は直線加速度や重力などの垂直加速度を、半規管は回転加速度を感知します。音の振動や加速度のエネルギーは内耳の内リンパ液の中に浮かんでいる毛細胞がセンサーとなって感知し、情報は神経を伝って脳に送られます。この耳石器や半規管が障害(機能過敏になったり、機能低下になる)されると異常な情報が脳に送られ、めまいが起こってきます。
 耳が原因で発症するめまいの代表的な病気としてメニエール病を紹介します。
 耳の異常でめまいが起こることを最初に発表したパリの医師メニエール(1799〜1862)を記念してメニエール病という病名が使われています。その後の研究で内耳の内リンパ液の異常産生(内リンパ水腫)により発症することが明らかになってきました。耳鳴や耳閉感(耳がつまったような感じ)、難聴が先行し(どちらか一方の耳の場合が多い)、突然、ぐるぐるまわるめまい発作が起こってきます。めまいと共に吐き気がしたり、嘔吐をともなうこともあります。めまい発作はいずれ治まりますが、時として忘れた頃に再発したりします。
 めまいは脳(脳幹〈のうかん〉、小脳〈しょうのう〉)に腫瘍が出来たり、出血したり、脳血管の血の巡りが悪くなったり、つまったりしても起こってきます。その時、めまい以外に頭痛、ものが二重に見える、舌がもつれる、手足がしびれるなどの神経症状を合併するのが特徴です。
 耳が原因で起こるめまいの場合はめまいの起こりにくい姿勢をとって安静にして、少し落ち着いたら早急に医療機関を受診してください。脳が原因で起こるめまいの症状のある時はすぐに医療機関を受診してください。

乗り物酔いとは
 乗り物に乗ると気分が悪くなり、顔面が蒼白となり、ふらふら感や冷や汗が出て、吐いてしまうことがあります。これは乗り物の揺れ(動揺)が原因でおこっており、乗り物酔い(動揺病)といいます。乗り物の種類により、車酔い、船酔い、空酔い、宇宙酔いといわれどれもほぼ同じ症状を示します。
 幼児や老人は酔いにくく、小学校入学頃より酔いやすくなり、高学年になるにつれて多くなり、女子の方が男子よりと多いという統計があります。
 前述したように耳石器、半規管はからだの平衡(バランス)をとる上で大切な役割をしています。動く乗り物に乗ると発進・停止の繰り返しやスピードの変化など前後・左右・上下・回転の加速度刺激を耳(耳石器、半規管)が受け、目の前を流れる景色の視覚刺激を目が受けます。それらの情報は無意識に脳に送られます。しかし、予測しない慣れない刺激を繰り返し受け続けると脳は情報過多となり、脳が混乱して自律神経に異常な信号を送ってしまいます。その結果、最初は生あくび、生つば、次に気分が悪くなり顔面蒼白、ふらふら感、冷や汗が出て、ついには嘔吐などの症状が出てしまうのです。
 バスの前の方の席に座り、進行方向の景色を見ていると乗り物に酔いにくいと言われています。車を運転する人はまず酔うことはありません。これは車の進行方向を意識して自然に身体が加速度に適応しているからです。車の進行方向が見えず、どのように揺れるか判らない後ろの席の人は受身の状態となり酔いやすいのです。ですから、進行方向がはっきりと見える前の方の座席にすわると酔いにくくなります。
 乗り物酔いに強くなるような訓練法は加速度耐性訓練をすることです。日ごろからブランコ、すべり台、シーソー、鉄棒、自転車、一輪車、マット運動など身体の前後、左右、上下、回転などあらゆる加速度に慣れるためのいろいろの運動をすることが大切です。積極的に乗り物に乗り、少しずつ慣らすことも大切です。
 冷水・乾布摩擦など自律神経訓練法も効果があります。
〈乗り物酔いの予防〉
乗る前の対策
 1)乗る前日はよく眠る。食事は腹8分目にする。
 2)乗り物酔いになることがわかっている人は学校医や主治医の先生に相談して酔い止めの薬を予  め飲んでおく。

乗り物に乗ってからの対策
 1)バスは前から4、5番目の席、船は振動の少ない中央部に座る。
 2)本を読まない。遠くの景色を見る。
 3)乗り物内の換気を良くし、いやな臭いがこもらないようにする。
 4)気分をまぎらすために歌をうたったり、ゲームをする。

 乗り物に酔ってしまったら場合は、乗り物を下車するのが最もよい方法です。下車出来ない場合は横になって、ベルトや衣服をゆるめ腹式呼吸をさせます。頭部を冷やし、室内の換気をよくしてください。乗り物酔いであれば間もなく回復します。