子供の中耳炎

■なぜ中耳炎は子どもに多い?

●大人と比べて、耳管が太く短く細菌が入りやすい

 「中耳炎」は、鼓膜の内側にある"中耳"と呼ばれる部分に炎症が起きる病気です。10歳以下の子どもに多く、特に5歳以下の乳幼児がかかりやすいといわれています。
 まずはじめに、耳の「音の聞こえる仕組み」について、説明しましょう。
 音は外耳道から入り、鼓膜を振動させます。この振動が耳小骨を介して、内耳に伝わり、音として脳に認識されます。この仕組みがきちんと働くためには、中耳にきれいな空気が絶えず入れ替わっていることが大事です。
 中耳の空気は、鼻腔の奥にある耳管を通って入ってきます。耳管はふだんはぴったりとふさがっていますが、ものを飲み込んだりしたとき、管が開いて空気が入り込みます。中耳に空気が入ることによって、外側から鼓膜にかかる圧力と中耳内の圧力が調整され、音が聞こえる仕組みが正常に働くわけです。
 子どもの場合、この耳管が大人に比べ、太くて短いのが特徴です。
 また、角度が水平に近いため、のどや鼻からいろいろな細菌が中耳に運ばれ、炎症を起こしやすいのです。
 さらに、子どもはかぜをひくことが多く、鼻やのどに細菌が入って、中耳炎につながりやすいこともあげられます。
 プールで泳いで、耳に水が入ると中耳炎になると考えている人もいるようですが、鼓膜に孔が開いていない限り、外耳から細菌が入り込むことはありません。中耳炎のほとんどが、のどや鼻から耳管を通して細菌が入ることが原因となっています。

子どもに多い中耳炎(1)

●急性中耳炎 (きゅうせいちゅうじえん)

▲特徴:非常に激しい痛みを起こし、高熱を伴うこともあります。この強い痛みは、鼓膜の内側にうみがたまり、鼓膜を外側に圧迫するために起こります。
検査:鼓膜の状態を拡大鏡や顕微鏡などで見て診断します。
 鼓膜は非常に薄い膜で、正常なときは、透き通って光沢がありますが、急性中耳炎でうみがたまると、鼓膜は赤く腫れます。
 鼓膜の状態をよく見ることは中耳炎の診断に非常に重要です。より詳しく状態を見て、治療方法を判断します。

▲治療:治療は症状の程度によって異なります。うみがあまりたまっていない軽度の場合は、抗生物質などの薬物療法を行います。
 うみがたまって激しく痛むときは、鼓膜に小さなメスで小さい孔を開け、うみを外に吸い出します。うみが出てしまえば痛みはすぐになくなります。
 治療の際に、鼓膜に開けた孔は、通常約1週間できれいにふさがるので心配はありません。
 ただし、痛みが消えたからといって治療をやめてしまうのは禁物です。炎症が治りきらないうちに治療を途中でやめてしまうと、耳管の機能が悪くなり、滲出性中耳炎になることが少なくありません。
 また、中耳の奥にある乳様突起(耳の後ろにある硬い骨の部分で、中はスポンジのように小さな空洞がたくさんある)にまで炎症が及ぶと、顔面神経麻痺が起こることがあります。
 このようなケースは多くはありませんが、やはり注意が必要です。
 鼓膜の状態が正常に戻るまで、薬の服用や、安静を保つなど、医師の指示に従うことが大切です。

子どもに多い中耳炎(2)

●滲出性中耳炎 (しんしゅつせいちゅうじえん)

▲特徴:鼓膜の内側に滲出液がたまり、音の聞こえが悪くなります。しかし、急性中耳炎のような痛みはありません。
 耳管の空気の通りが悪くなると、鼓膜の内側の圧が低くなり、周囲の組織から滲み出た液体が、中耳にたまってきます。同時に音を伝達する働きが鈍くなり、難聴の原因になります。
 急性中耳炎の治療が不十分なときや、アデノイド(耳管咽頭口の近くにあるリンパ組織である咽頭扁桃が腫れて大きくなったもの)が耳管をふさいでいたりするときに起こりやすい病気です。
検査:難聴といっても軽度なので、気づかないことが多いのですが、急性中耳炎の場合と同様、拡大鏡や顕微鏡で鼓膜を見ると、中耳に滲出液がたまっているのがわかります。
 また、機械を使って、鼓膜の動きやすさを調べる検査方法もあります。
 耳に耳栓のようなものを入れて、空気を送り、鼓膜に圧を加えます。同時に音波を出し、それが跳ね返ってくる状態を調べます。
 正常な場合、鼓膜は振動しやすく、音波に反応しますが、滲出性中耳炎になると、鼓膜がほとんど振動しないので、音が聞こえにくくなります。この検査は痛みもなく、数秒で終わります。

▲治療:初期の段階では、鼻から強制的に空気を送り、耳管を開いて、空気の通りをよくすることで簡単に治ります。
 滲出液がたくさんたまっているような場合は、鼓膜に小さなメスや注射針のような器具で孔を開け、液を吸い出します。
 1回の治療で治らないような場合は、ごく小さなチューブを鼓膜に入れ、中の液が完全になくなるまで半年から1年くらいの間、装着したままにします。チューブを取ったあとの孔は自然にふさがっていきますが、ふさがりにくいときは簡単な手術で閉じます。 アデノイドが原因で中耳炎が起きている場合は、チューブを入れて滲出液を排出するほかに、アデノイドを手術で取ることもあります。
 手術をする場合は、全身麻酔をするため、2〜3日間の入院が必要です。のどや鼻の奥のあたりには、ほかにも多くのリンパ組織があり、アデノイドを取っても、免疫力が低下するといった心配はありません。
 滲出性中耳炎を放置すると、「真珠腫性中耳炎」という手術治療が必要になる慢性中耳炎に進んでしまうことがあります。子どもの聞こえがおかしいと感じたら、すぐに耳鼻科を受診してください。

日常生活の注意点

ふだんから子どもの体調や行動に注意する
 急性中耳炎は、かぜをひいたあとにかかることが多いようです。かぜのはやる季節には、なるべく人込みの中に行かない、外から帰ったら必ずうがいをするなど、予防に気を配ってください。
 また、鼻やのどに病気があると、耳管に細菌が入りやすくなります。副鼻腔炎(蓄膿症)や扁桃炎、アレルギー性鼻炎などがある場合は、適切な治療をしておくことが大切です。

 滲出性中耳炎を早く見つけるには、子どもの様子をふだんから注意してみることです。かぜが治ったのに元気がない、テレビの音を大きくしたがる、呼びかけてもなかなか返事をしないなどに気づいたら、ぜひ耳鼻科を受診するようにしてください。